頸部嚢胞 (正中頸嚢胞、側頸嚢胞)
1.概要
頸部嚢胞(けいぶのうほう)とは、首の部分にできる袋状の構造物で、中に液体成分がたまっている病変を指します。代表的なものに、正中頸(せいちゅうけい)嚢胞や側頸(そくけい)嚢胞があり、リンパ管腫や皮様嚢腫なども含め、さまざまな種類があります。多くの場合、首にしこりや腫れとして触れるだけで症状は軽微ですが、炎症が起こると痛みや周囲組織との癒着が生じることがあります。また、嚢胞とみられる病変の中には、まれに悪性腫瘍(鰓性がんなど)や転移リンパ節などが含まれる可能性があるため、注意が必要です。
2.症状
- 首のしこり・腫れ:主に正中部や側頸部に、柔らかい腫瘤として触れられることが多い
- 痛みや赤み:炎症や感染を伴うと、痛みや皮膚の発赤がみられる
- 腫れの変動:液体が溜まったり吸収されたりすることで、サイズが変化する場合がある
- 周囲組織との癒着:炎症が強い場合、周囲の皮膚や筋肉に癒着が起こり、動かしづらくなることがある
3.原因
- 先天性の構造異常:正中頸嚢胞や側頸嚢胞は、胎生期に形成される頸部の構造物が残存してしまうことで発生
- リンパ管や皮膚組織の増殖異常:リンパ管腫、皮様嚢腫など、発生過程の異常により嚢胞ができる
- 炎症や感染:既存の嚢胞が細菌などに感染して炎症を起こし、腫れや痛みを伴うことがある
- 悪性疾患:まれに鰓性がんや転移リンパ節などが嚢胞性に変化するケースがある
4.診断
- 問診・視診・触診:腫れの位置、硬さ、痛みの有無などを詳しく確認
- 画像検査(超音波、CT、MRIなど):嚢胞の大きさや内部の性状、周囲組織との関係を評価
- 穿刺吸引細胞診:嚢胞内の液体を採取し、細胞診で悪性の可能性を評価
- 病理検査(生検):必要に応じて嚢胞の一部または全体を摘出し、病理組織学的に診断を確定
5.治療
- 経過観察:症状が軽く、腫瘍が小さい場合は、定期的に大きさや症状の変化を観察する
- 穿刺吸引:一時的に嚢胞内容液を抜くことで腫れを軽減するが、再び液体がたまることが多い
- 手術療法:
- 嚢胞摘出術:根本的な治療として嚢胞の壁ごと完全に取り除く
- リンパ管腫の薬剤注入:リンパ管腫など嚢胞壁が薄い場合に薬剤を注入し、嚢胞を縮小させる
- 悪性疾患への対応:鰓性がんや転移リンパ節などが疑われる場合は、手術・放射線・化学療法などの総合的治療を行う
首にしこりや腫れを感じた場合、まずは耳鼻咽喉科で詳しい検査を受けることが大切です。嚢胞かどうかを見極めるだけでなく、悪性疾患の可能性を慎重に排除し、適切な治療方針を決定することで、早期改善が期待できます。